企業の現場では、AIクリエイティブがすでに動いています。社内のデザイナーが生成AIで初稿を作る。AI 技術ツールの特性やモデルを深く理解している外部の制作チームが、キャンペーンやティーザーなど専門的領域のクリエイティブを仕上げる。会議に AI 生成によるビジュアル化された複数案が並ぶ。ただ、その運用を誰の責任で判断しているかは、まだ多くのブランドで曖昧なままです。

その空白を担う役割が、いま生まれています。 弊社ではこの立場を、AIクリエイティブ責任者と呼んでいます。

弊社はこれまで、70 ヶ国 5,000 社超を顧客に持つ米国最大の広告グループ、傘下 16 ブランドを擁する欧州最大のラグジュアリーコングロマリット、AW26 パリメンズコレクション EMV ランキング世界 4 位のラグジュアリーブランドをはじめ、10 都市・20 社以上のブランド企業への制作納品を行ってきました。この現場から見えている役割の輪郭を、以下で整理します。

AIクリエイティブ責任者は、AI技術を前提としたブランドコミュニケーションを設計し、判断し、社内外の役割分担を運営する立場です。ツールの選定ではなく、AIクリエイティブを自社のどこまで許容するか、技術背景をどこまで理解するか、ブランドコミュニケーションの表現・体験・伝達がどう変わるのか、そのすべてを踏まえた判断を担います。

WPP Media が 2025 年に発表した 「Advertising in 2030」では、業界関係者の 7 割以上は、2030 年までに、クリエイティブの大半は AI 技術を活用し制作されると予測しています。前回の調査から、業界の見方がもっとも大きく動いた項目です。

この数字が示しているのは、AI が人を置き換える未来ではなく、企業のブランド素材資産を構築する方法やコミュニケーションが、新しいかたちに変わっている今の状況です。

責任者が育たない企業では、AI 技術についての判断が外部にまるごと預けられるか、詳しい担当者一人の属人的な判断のまま、社内の準備が追いつかない状態が続きます。判断軸を持たないままでは、ブランド側が「なぜその表現なのか」を説明することも難しくなります。

競合他社はすでに、学習機会を得るところから、社内での使い方の設計、ルールと状況の把握、進める領域の順序づけ、均一化リスクへの向き合いまで、判断の基準を一つずつ整えています。技術がまだ企業で使えるレベルに満たない過去に「使うか使わないか」で足りていた判断は、AI 技術が多くの企業の業務のなかに入り込んだ段階で、状況が変わりました。

海外では、この職務をはっきり置いた企業も現れています。The Brandtech Group は 2024 年 7 月、元 Burberry の James Dow 氏を同社初の Gen AI Creative Director に任命しました。生成 AI で作るクリエイティブの品質を守る。Pencil というプラットフォームで制作を進める。Gen AI Residency Program を通じて生成 AI アーティストと組む。この 3 つが、公表された役割です。

実際に弊社が進めている実制作では、ブランド側が社内でビジュアル素材の一部を作り、その素材をもとに弊社が映像やキャンペーンを仕上げる事例もあります。この AI 時代におけるブランド企業と制作パートナーとしての協業のかたちは、すでに弊社の制作環境をもって実証されています。

この構造が成立している背景には、ブランド責任者やクリエイティブに関わる担当者が、AI 技術の背景と、ブランドとしてどこまで使うかを理解している状況があります。その分、企業はスピード感のあるブランドコミュニケーションを実現できる大きなメリットがあります。

ただし、この段階に至っているブランド企業は、現在まだごくわずかです。

弊社では、ブランド企業ごとに、どのような形で AI クリエイティブに向き合うかを設計しています。特定の担当者を立てるのか、専門役割を持つ方をこの時代に合わせて配置するのか、社内全体の学習機会として捉えるのか。企業の体制と目的に合わせて、プランを立てさせていただきます。

まずはどの範囲から社内で学習機会を獲得していくかを整理するところから始められます。あるいは、まずは小さく AI 技術を前提とした小規模プロジェクトを一つご相談いただくこともできます。無理のない範囲で、着手できる形を一緒に設計します。

弊社は生成 AI 黎明期から、AI クリエイティブと AI 技術によるブランドコミュニケーションの設計や、世の中への実装に取り組んできました。

これから訪れる、クリエイティブディレクター、アートディレクター、ブランド責任者の職務の再編と、求められる領域の広がり。AI 時代に、企業やブランドを取り巻く環境がどう変わるのかを、ゼロから学べる社内向けの人材研修もご用意しています。