企業の現場では、AIクリエイティブがすでに動いています。社内のデザイナーが生成AIで初稿を作る。AI 技術ツールの特性やモデルを深く理解している外部の制作チームが、キャンペーンやティーザーなど専門的領域のクリエイティブを仕上げる。会議に AI 生成によるビジュアル化された複数案が並ぶ。(別記事:AIクリエイティブ責任者という職種の誕生より)
慎重な検討を続けている間にも、AI クリエイティブの活用と判断は、社内外のあちこちで先に進んでいます。
この状況で慎重な会社が失っていくのは、判断そのものです。
これから慎重な会社が下せなくなるのは、少なくとも次の 5 つの判断です。
1. どの制作工程で AI クリエイティブを使うかの判断 キービジュアルの初稿か、実制作環境への本格的導入か。実際に AI 技術に対する学習機会を獲得し、小規模なプロジェクトから検証を行わない限り、自社に合う AI 技術の活用とそうでない部分は分かりません。判断が育たないまま、外部の提案をそのまま採用する状態が続きます。
2. 内製と外注の線引きの判断 自社で一度も作ってみたことがなければ、社内で担える範囲が見えません。結果、全工程を外部へ任せ続けるか、逆に全社内化を無計画に進める、という両極端の意思決定になります。
3. 自社に合う生成モデルの判断 モデルごとに、商用利用条件、学習データの権利、情報管理、出力の質が違います。実際に触って比較していなければ、選定の根拠を持てず、社外の提案を追認するだけになります。
4. ブランドらしさの確認基準の判断 どの表現が自社らしいか、どこが崩れたら NG か。実物で確認していなければ、感覚的な判断が続き、承認が属人化します。担当者が変わった瞬間、基準がリセットされます。
5. 制作物の記録・承認・更新を誰が担うかの判断 使用モデル、参照素材、生成条件、権利確認、公開範囲。運用フローを一度も回していない状態で、担当者の役割を先に決めることはできません。
この 5 つは、ツールの比較表や外部レポートだけでは決められません。実際に小さく試して、はじめて判断軸が育ちます。
すでに AI クリエイティブを導入している企業は、この 5 つを先に整えることで、後の運用がスムーズに進んでいます。判断軸を持ってから活用を広げる。この順序が、ブランドの強さにつながっています。
変化するのは、制作の判断だけではありません。
BX(ブランド体験の変化)では、AI クリエイティブを前提とした運用において、ブランドの表現を保てるかが問われます。CX(顧客体験の変化)では、顧客が AI で商品を選ぶ場面に備え、商品カタログ、ブランドコミュニケーションの強化(均一化のリスクに備える、AI がユーザーへ引用できる自社の公開クリエイティブ資産を世の中へ増やすなど)、ブランドが提供する価値を、埋もれずに AI が推奨できる形で整える必要性が問われていきます。EX(従業員体験の変化)では、担当者が生成 AI の業務活用や AI 技術への理解をもって、ブランドの業務に取り組める環境づくりが求められます。
McKinsey は、2030 年までに AI エージェントが世界の消費者向け商取引の 3〜5 兆ドルを仲介する可能性があると試算しています(出典)。顧客側の AI が商品を比較し、企業側の AI が情報を返す時代。ブランドコミュニケーションは、人に見せる以外の用途にも広がっていきます。既存の制作体制のままでは、AI 技術を活用して高品質なブランドコミュニケーションを安定的に発信し続ける企業に埋もれ、AI が自社の商品や情報をユーザーへ届けられなくなる状況も想定されています。
慎重な会社こそ、最初にできるのは、今後起こりうる変化をまずは知るという学習機会の獲得です。生成 AI 時代におけるブランドや企業を取り巻く環境の変化、新たに誕生した AI 技術に対する判断材料を揃え、自社に関係する変化と、まだ対応しなくてよい変化を分ける。そのうえで小さな検証を行えば、賛成か反対かではなく、条件を付けて判断できるようになります。
弊社は、まずは社内全体で変化を知るための学ぶ機会を提供しています。制作担当者、社内の他部署、ブランド責任者が同じ言葉で話せる状態をつくるところから始めます。学習・人材研修/PoC・プロジェクト開発/社内技術導入/設計・伴走の四段階でサービスを公開しています。
判断できる立場を社内に持ってから、活用に踏み出す。この順序が、慎重さを、ブランドの強さに変えていきます。